透明に

 先日NHKテレビの「クイズ日本の顔」という番組に、戸田奈津子さんという方が出ていました。彼女は映画の日本語の字幕を作る翻訳者です。英語のセリフを日本語に翻訳し、それを映画の画面の下に表示する。英語のできない私たちにとって、この字幕がなければ外国映画を理解することができません。

 彼女は日本でトップの字幕翻訳者で、これまで紹介された有名な映画の字幕は、ほとんど彼女が作ったものだといいます。

 その彼女が、最も理想とする字幕とはどんな字幕かというクイズです。分かりやすい、漢字を少なくといった答え答えに反し、彼女が理想とする字幕とは、「透明な字幕」という答えでした。

 普通は自分の翻訳した字幕が目立つことを喜ぶものです。ところが彼女は映画の画面の邪魔をしない、まるで字幕が透明で何もないかのような字幕こそが理想だというのです。

 字幕は脇役、主役の映像の邪魔をしない、透明な字幕、つまり目立たない字幕こそ理想の字幕だというのです。
 字幕翻訳者という、映画の世界の脇役としての自分を弁えた彼女の言葉に、さすが日本一になる人は違うなあと感心しました。

 なにかというと「おれが、おれが」という自己主張の人ばかりが目につく昨今です。

 禅語に「随所に主になれ」という言葉があります。随所とは、どんな地位や身分にあっても、その中で最高の自分を出して生きよ、という意味です。なにがなんでもトップになれ、リーダーになれという意味ではありません。脇役のときは脇役として、主役の時は主役として、自分の力を出し切ることが「随所に主」となる生き方なのです。

 存在がわからない「透明な字幕」を目指すという字幕翻訳者り戸田さんに、真の意味での人生の達人を感じました。

(平成18年12月1〜15日 テレホン説教)

 

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